研究紹介Research

物理・宇宙プログラム

准教授新永浩子

Hiroko Shinnaga

宇宙の塵(ちり)・分子・磁力線などを観測して、私たち生命の誕生、太陽系の豊かな物質の起源を探ります

 私たちは、宇宙空間を漂う極低温(10-100ケルビン(K)程度)、超真空(水素分子の数が1立方センチメートルあたり100個から100万個;地球大気の密度の10の11乗分の1以下)環境下にある星間分子雲内部で起こる気相化学反応、100ナノメートル(nm)程度のサイズ(たばこの煙程度の大きさ)の固体微粒子である塵の表面での化学反応により生成された、様々な分子のスペクトル線(マイクロ波から遠赤外にいたる主に回転準位間の遷移)、星が一生をかけて合成した物質が星周領域に撒き散らされ、極低温環境下で形成された塵や分子線の放射などを観測して、星が誕生しつつある領域(星形成領域)、生涯を終えつつある星(進化末期星)の星周領域、進化末期星の極近傍で分子が形成されている現場、超巨大ブラックホールの潜む銀河中心領域などを分光観測、連続波観測を用いて研究しています。分光観測、連続波観測に加えて、それらの放射の偏波(赤外線より短い波長の電磁波では偏光と呼ばれます)観測を行い、星間・星周磁場の方向や強度も推定、測定しています。炭素鎖分子のCCSなどを含む様々なラジカル分子のゼーマン効果の研究と天文学への応用、星間磁場の測定と分子や塵の解析データとを組み合わせて、地球上の生命の誕生、太陽系の豊かな物質の起源の謎に迫ります。

電波で探る原始星の誕生
〜磁力線を巻き込みながら分子雲コア中で成長する様子をとらえた!〜

右図:太陽系から460光年離れた、おうし座分子雲にある分子雲コア(L1521F)内部に誕生した原始星(L1521F-IRS、またはMMS-1と呼ばれる)に付随する、3次元シミュレーションによって得られた特徴的構造。赤線は磁力線、緑は擬似円盤、青は原始星から吹き出す双極分子流を表している。私たち太陽系から同天体を観測した方向はオレンジ矢印で示す。1AUは1天文単位で、地球と太陽の間の距離である。
左図:おうし座領域の分子雲コアL1521Fの観測的特徴。最も拡がった空色は、炭素鎖分子CCSガス分布(水素分子の個数密度で1万個cm⁻³程度の相対的に低密度のガス)、オレンジはN₂H⁺分子ガスの分布(水素分子の個数密度にして10万個cm⁻³以上と相対的に高密度のガス)、赤は原始星からの双極分子流がつくりだした双極状にあいた穴、緑色は波長850ミクロン(μm)で捉えた、極低温(10ケルビン(K)程度)の星間塵(せいかんじん)の分布、黄緑色は波長450μmで観測された、数10K程度の暖かい星間塵の分布、青色は波長3.3mmで放射する10K程度の星間塵の分布で、原始星の円盤構造の深部を捉えている。黒棒線は波長850μmと450μmの連続波偏波観測から検出に成功した磁力線の向き、白棒線はプランク宇宙望遠鏡で検出した分子雲コアの領域の大局的磁力線の方向、中心の白い星印は原始星の位置、青いベクトルは原始星から噴き出る双極分子流の方向を表す。(出典:Fukaya, Shinnaga, Furuya, Tomisaka, Machida and Harada 2023, Publication of Astronomical Society of Japan, Volume 75, Issue 1, pp.120-127)

PROFILE

埼玉県出身。茨城大学大学院理工学研究科宇宙地球システム科学専攻修了し、博士(理学)を取得後、13年に渡り、海外で研究を行う。台湾中央研究院天文及天文物理研究所、米国のハーバード大学観測所・スミソニアン天体物理学観測所のポスドク研究員として活動後、カリフォルニア工科大学の常勤リサーチサイエンティストとして研究を行う。連携教員として所属したハワイ大学ヒロ校ではStellar Astrophysicsの講義を担当。帰国後、国立天文台野辺山宇宙電波観測所、チリ観測所の東アジアALMA地域センターを経て鹿児島大学学術研究院理学系物理・宇宙プログラムの教員として着任し、教育、研究に携わる。センチ波、ミリ波、サブミリ波、赤外線を主に用いて、宇宙の塵、分子、磁力線などを観測し、理論研究と比較することにより、星の誕生段階と進化末期段階の星、銀河中心領域の物理現象の理解に挑み、私たち生命の起源、太陽系の豊かな物質の起源の解明に迫る。

物理・宇宙プログラム 教員紹介
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